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== 概要 ==
== 概要 ==
本ComplexRIは全反射実験から得られた反射率あるいは吸光度のデータをもとにして媒質の複素屈折率の分散を出力するWebアプリケーションである。
 本ComplexRIは、全反射実験から得たデータを用いて、複素屈折率の分散を調べるためのWebアプリケーションである。複素屈折率の分散を調べることは和周波分光の解析に役立つ。界面SFG分光とは可視光と赤外光の2つの光を照射したときに、界面で選択的に発生する和周波光を検出するもので、2次の非線形効果を応用した分光法であり、近年液体界面や高分子界面などを含めた幅広い界面分析に応用されるようになった。この和周波発生はフレネル係数に大きく影響されており、また、フレネル係数は屈折率に依存した量である。そこで和周波分光を解析するには複素屈折率の分散を調べることが必要であり、本Complexそれを手軽に行えることを目的に開発された。
<span style="font-size: 100%; color:red;">1⃣実験の結果、</span>
<span style="font-size: 100%; color:red;">2⃣ファイル形式に関する入力、</span>
<span style="font-size: 100%; color:red;">3⃣実験の条件、</span>
<span style="font-size: 100%; color:red;">4⃣解析に関する条件</span>
という四つの情報を入力として与えると、解析が行える。


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==主な特徴==
*全反射実験の実験データさえあれば、複素屈折率の分散を出すことが可能。
*適用範囲は赤外領域。これは、和周波分光では官能基を調べることを目的としており、これに一致する光の周波数帯が赤外領域だからである。
 
==作成の経緯==
 和周波分光の結果をより正確に解析するための情報として様々な官能基に関する複素屈折率の分散を調べた論文<ref name = "ref1" /><ref name = "ref2" /><ref name = "ref3" />がある。これは全反射実験のデータに基づいて屈折率の分散をまとめたものになっている。本ComplexRIはこれに基づいて、全反射実験のデータさえ与えれば、同じようなフィッティングが簡単に行えるように開発された。<br />
 フィッティング計算には論文<ref name = "ref2" /><ref name = "ref3" />で用いられたものを主として用いている。これは、本研究室の王助教と以前森田グループに所属していた村田によって作成されたものである。本ComplexRIでは初期値を設定しなくてもフィッティングが行えるように、少しアルゴリズムを改良している。これは本研究室の森田教授、王助教の指導の下で上村が実装した。<br />
 また、WebアプリケーションとしてのUIも上村が実装した。


== チュートリアル ==
== チュートリアル ==
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{|class="wikitable"
{|class="wikitable"
! 目次(マニュアル)
! 目次(入力)
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|[[入力#入力01|入力01]]:タイトル
|[[入力#入力01|入力01]]:タイトル
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|[[入力#入力11|入力11]]:フィッティング関数のパラメータの設定の有無
|[[入力#入力11|入力11]]:フィッティング関数のパラメータの設定の有無
|}
{|class="wikitable"
! 目次(出力)
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|[[出力#出力01|出力01]]:数値
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|[[出力#出力02|出力02]]:表
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|[[出力#出力03|出力03]]:グラフ
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|[[出力#出力04|出力04]]:アウトプットファイル
|}
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|[[説明01|説明01]]:フィッティング方法
|[[説明01|説明01]]:フィッティング方法
|}
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<span style="font-size: 100%; color:red;">※このページを見るにはブラウザとしてchromeを使用されることを推奨しています。ブラウザによっては読み込みにかなり時間がかかることがあります。</span>


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|[[詳細02|詳細02]]:p波とs波の平均値で与えられる理由
|[[詳細02|詳細02]]:p波とs波の平均値で与えられる理由
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|[[詳細03|詳細03]]:屈折率の虚部が吸収を表す理由
|}
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<div id="詳細01"  style="font-size: 150%; color:Aqua;">詳細01:ローレンツ関数を使う理由</div>
: これには2つ理由がある。
: 1つはローレンツ関数がクラマースクロニッヒの関係を満たすことだ。
: 屈折率の実部と虚部がクラマースクロニッヒの関係を満たすことからフィッティング関数にもこのような性質が要求される。
: この関係式は以下のようなものである。導出は複素積分を使う数学的なものなので導出等は省略する。詳細は参考文献[1]を参照してほしい。<ref name = "ref1" />
: <math>n_{1}(\nu) - 1 = \frac{2}{\pi}P\int_{0}^{\infty}\frac{n_{2}(\nu')}{\nu'^2 - \nu'^2}\, d\nu'</math>
: <math>n_{2}(\nu) = - \frac{2}{\pi}P\int_{0}^{\infty}\frac{n_{1}(\nu')}{\nu'^2 - \nu^2}\, d\nu'</math>
: これが1つ目の理由である。
: 2つ目の理由は配向分極の振動電場に対する応答がデバイ型緩和によってよく表せることが背景になっている。ここでは、導出は省略して最終的に導かれる式のみを示す。詳細は参考文献[2]<ref name = "ref2" />を参照してほしい。
: デバイ型緩和の考え方に基づくとは以降分極による誘電率は以下のように表せる。
: <math>\hat{\epsilon}(\omega) = {\epsilon}_{0}({{\epsilon}_{\infty} + \frac{{\epsilon}_{s} - {\epsilon}_{\infty}}{1 + i{\omega}{\tau}} })</math>
: ここで、<math>{\epsilon}_{s}</math>:定常電場の比誘電率、<math>{\epsilon}_{\infty}</math>:高周波極限の比誘電率であり、
: <math>{\epsilon}_{s} = 1 + {\chi}_{e1} + {\chi}_{e2}</math>(<math>{\chi}_{e1}</math>:原子間の結合の振動に関する感受率 <math>{\chi}_{e2}</math>:回転に関する感受率)
: <math>{\epsilon}_{\infty} = 1 + {\chi}_{e1}</math>
: と表される。
: このことからは以降分極による誘電率<math>\epsilon</math>はローレンツ関数で近似的に表されることがわかる。
: さらに、誘電率<math>\epsilon</math>と屈折率<math>n</math>の間には
: <math>\sqrt{\epsilon} = n</math>
: という関係があるから、屈折率もローレンツ関数で表しやすいと考えられる。
: 以上の2つの理由からフィッティング関数としてローレンツ関数を用いている。


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<div id="詳細02"  style="font-size: 150%; color:Aqua;">詳細02:p波とs波の平均値で与えられる理由</div>
: 光をp波とs波に分けてそれぞれ強度の比がしたようになっているとする。
: <math>
\begin{cases}
I_s^r &= {\left | r^s \right \vert^2}I_s^i + \\
I_p^r &= {\left | r^p \right \vert^2}I_p^i
\end{cases}
</math>
: 右辺の<math>I_s^i, I_p^i</math>が入射光。左辺の<math>I_s^r, I_p^r</math>は反射光である。
: 辺々を足すと
: ⇔ <math>I_s^r + I_p^r = \left | r^s \right \vert^{2}I_s^i + \left | r^p \right \vert^{2}I_p^i</math>
: ⇔ <math>I_s^r + I_p^r = (\left | r^s \right \vert^{2} + \left | r^p \right \vert^{2})I_p^i</math>(∵右辺の入射光は自然光で<math>I_s^i = I_p^i</math>)
: ⇔ <math>I_s^r + I_p^r = \frac{\left | r^s \right \vert^{2} + \left | r^p \right \vert^{2}}{2}2I_p^i</math>
: ⇔ <math>I_s^r + I_p^r = \frac{\left | r^s \right \vert^{2} + \left | r^p \right \vert^{2}}{2}(I_s^i + I_p^i)</math>
: ⇔ <math>\frac{I_s^r + I_p^r}{I_s^i + I_p^i} = \frac{\left | r^s \right \vert^{2} + \left | r^p \right \vert^z{2}}{2}</math>
: ゆえに、光強度反射率はp波とs波の平均で与えられる。


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==参考文献==
==参考文献==
<references>
<references>
<ref name = "ref1">小林浩一:光物性入門</ref>
<ref name = "ref1">"Effect of Frequency-Dependent Fresnel Factor on the Vibrational Sum Frequency Generation Spectra for Liquid/Solid Interfaces"
<ref name = "ref2">遠藤雅守:電磁場の物理学ーその発生・伝搬・吸収・増幅・共振を電磁気学で理解するー</ref>
Lin Wang, Satoshi Nihonyanagi, Ken-ichi Inoue, Kei Nishikawa, Akihiro Morita, Shen Ye, Tahei Tahara, J. Phys. Chem. C, 123(25) 15665-15673 (2019).</ref>
<references />
<ref name = "ref2">"Dispersion of Complex Refractive Indices for Intense Vibrational Bands. II Implication to Sum Frequency Generation Spectroscopy"
 
Lin Wang, Ryo Murata, Ken-ichi Inoue, Shen Ye, and Akihiro Morita, J. Phys. Chem. B, 125(34), 9804-9810 (2021).</ref>
[http://comp.chem.tohoku.ac.jp/mediawiki/index.php/ComplexRI ComplexRIページtopへ]]
<ref name = "ref3">"Dispersion of Complex Refractive Indices for Intense Vibrational Bands. I Quantitative Spectra"
Ryo Murata, Ken-ichi Inoue, Lin Wang, Shen Ye, and Akihiro Morita, J. Phys. Chem. B, 125(34), 9794-9803 (2021).</ref>
</references>

2021年12月14日 (火) 08:19時点における最新版


概要

 本ComplexRIは、全反射実験から得たデータを用いて、複素屈折率の分散を調べるためのWebアプリケーションである。複素屈折率の分散を調べることは和周波分光の解析に役立つ。界面SFG分光とは可視光と赤外光の2つの光を照射したときに、界面で選択的に発生する和周波光を検出するもので、2次の非線形効果を応用した分光法であり、近年液体界面や高分子界面などを含めた幅広い界面分析に応用されるようになった。この和周波発生はフレネル係数に大きく影響されており、また、フレネル係数は屈折率に依存した量である。そこで和周波分光を解析するには複素屈折率の分散を調べることが必要であり、本Complexそれを手軽に行えることを目的に開発された。

主な特徴

  • 全反射実験の実験データさえあれば、複素屈折率の分散を出すことが可能。
  • 適用範囲は赤外領域。これは、和周波分光では官能基を調べることを目的としており、これに一致する光の周波数帯が赤外領域だからである。

作成の経緯

 和周波分光の結果をより正確に解析するための情報として様々な官能基に関する複素屈折率の分散を調べた論文[1][2][3]がある。これは全反射実験のデータに基づいて屈折率の分散をまとめたものになっている。本ComplexRIはこれに基づいて、全反射実験のデータさえ与えれば、同じようなフィッティングが簡単に行えるように開発された。
 フィッティング計算には論文[2][3]で用いられたものを主として用いている。これは、本研究室の王助教と以前森田グループに所属していた村田によって作成されたものである。本ComplexRIでは初期値を設定しなくてもフィッティングが行えるように、少しアルゴリズムを改良している。これは本研究室の森田教授、王助教の指導の下で上村が実装した。
 また、WebアプリケーションとしてのUIも上村が実装した。

チュートリアル

チュートリアルでは4種類全10個の入力について、実際に解析を行い、その結果をもとに説明する。
目次(チュートリアル)
チュートリアル01:ファイルを入れて解析する(入力1⃣を与える練習)
チュートリアル02:解析に関する条件を指定する(入力4⃣を与える練習)
チュートリアル03:ファイルの形式を変える(入力2⃣を与える練習)
チュートリアル04:実験条件を正しく与える(入力3⃣を与える練習)

マニュアル

目次(入力)
入力01:タイトル
入力02:ファイル
入力03:反射率か吸光度か?
入力04:波数範囲
入力05:データの列の指定
入力06:昇順か降順か?
入力07:実験で用いた基質の種類
入力08:入射角
入力09:吸収がないときの屈折率
入力10:残差の指定
入力11:フィッティング関数のパラメータの設定の有無
目次(出力)
出力01:数値
出力02:表
出力03:グラフ
出力04:アウトプットファイル

内部処理

目次(内部処理)
説明01:フィッティング方法

※このページを見るにはブラウザとしてchromeを使用されることを推奨しています。ブラウザによっては読み込みにかなり時間がかかることがあります。



詳細

目次(詳細)
詳細01:ローレンツ関数を使う理由
詳細02:p波とs波の平均値で与えられる理由
詳細03:屈折率の虚部が吸収を表す理由

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参考文献

  1. "Effect of Frequency-Dependent Fresnel Factor on the Vibrational Sum Frequency Generation Spectra for Liquid/Solid Interfaces" Lin Wang, Satoshi Nihonyanagi, Ken-ichi Inoue, Kei Nishikawa, Akihiro Morita, Shen Ye, Tahei Tahara, J. Phys. Chem. C, 123(25) 15665-15673 (2019).
  2. 2.0 2.1 "Dispersion of Complex Refractive Indices for Intense Vibrational Bands. II Implication to Sum Frequency Generation Spectroscopy" Lin Wang, Ryo Murata, Ken-ichi Inoue, Shen Ye, and Akihiro Morita, J. Phys. Chem. B, 125(34), 9804-9810 (2021).
  3. 3.0 3.1 "Dispersion of Complex Refractive Indices for Intense Vibrational Bands. I Quantitative Spectra" Ryo Murata, Ken-ichi Inoue, Lin Wang, Shen Ye, and Akihiro Morita, J. Phys. Chem. B, 125(34), 9794-9803 (2021).