講義内容
講師 斉藤 真司 先生
タイトル 凝縮系ダイナミクスの理論・計算科学アプローチ
さまざまな実験手法により、系の構造、熱力学、ダイナミクスを解析することができる。これらの実験結果は、線形応答理論などを用いることにより様々な微視的物理量により定式化・理解することができる。本講義では、凝縮系のダイナミクスおよび分光法の基礎を理解することを目的とする。まず、これらの理論により実験手法・観測量がどのように表され、分子動力学シミュレーション等の計算によりどのように求めることができ、そこからどのようなことが分かるかについて紹介する。
講師 志賀 基之 先生
タイトル 水溶液の第一原理シミュレーション
第一原理シミュレーションとは,電子状態計算から得られた原子間相互作用を用いて,各原子の運動方程式を数値的に解く計算手法のことです.大きな計算機資源を要する方法ですが,スーパーコンピュータの発展とともに普及が進んでいます.経験的パラメータを使用せず,量子力学・古典力学・電磁気学・統計力学を適切に組み合わせ,物理法則のみに従って計算が実行できるのが魅力です.
この講義では,第一原理シミュレーションの基礎と,水溶液を対象とした応用計算について2部構成で紹介します.第1部では,水溶液中における化学反応のシミュレーションを取り上げます.ここでは,反応自由エネルギーを計算することのできるメタダイナミクス法や平均力ダイナミクス法について解説します.第2部では,水クラスターや水溶液における水素結合の量子効果,同位体効果を取り上げます.ここでは,原子核の量子効果を考慮することのできる経路積分法を解説します[1].最後に,研究の最前線の一端として,溶液系のQM/MM法を取り上げます[2].
なお,時間の関係上,電子状態理論については省略します.しかし,第一原理シミュレーションを行うのに,電子状態理論に親しむことはとても大事です.興味のある方は,以下の解説記事[3],あるいは,その引用文献を参照してください.
[1] 志賀基之,「Ab initio経路積分法:量子多体系の第一原理計算」,Molecular Science 5, A0038, 1-9 (2011).
[2] 志賀基之,「マルチスケール法:複雑分子系の計算科学」,日本物理学会誌 72, (11), 772-773 (2017).
[3] 志賀基之,「電子状態理論の初歩」,分子シミュレーション研究会アンサンブル,2012年14巻2号~2014年16巻3号(全10回,連載).
この講義では,第一原理シミュレーションの基礎と,水溶液を対象とした応用計算について2部構成で紹介します.第1部では,水溶液中における化学反応のシミュレーションを取り上げます.ここでは,反応自由エネルギーを計算することのできるメタダイナミクス法や平均力ダイナミクス法について解説します.第2部では,水クラスターや水溶液における水素結合の量子効果,同位体効果を取り上げます.ここでは,原子核の量子効果を考慮することのできる経路積分法を解説します[1].最後に,研究の最前線の一端として,溶液系のQM/MM法を取り上げます[2].
なお,時間の関係上,電子状態理論については省略します.しかし,第一原理シミュレーションを行うのに,電子状態理論に親しむことはとても大事です.興味のある方は,以下の解説記事[3],あるいは,その引用文献を参照してください.
[1] 志賀基之,「Ab initio経路積分法:量子多体系の第一原理計算」,Molecular Science 5, A0038, 1-9 (2011).
[2] 志賀基之,「マルチスケール法:複雑分子系の計算科学」,日本物理学会誌 72, (11), 772-773 (2017).
[3] 志賀基之,「電子状態理論の初歩」,分子シミュレーション研究会アンサンブル,2012年14巻2号~2014年16巻3号(全10回,連載).
講師 田中 秀樹 先生
タイトル 分子性結晶の自由エネルギー計算法と氷への応用
凝集相の構造や時間を含まない物性の理論的研究では、自由エネルギーが主要な役割を担う。例えば1成分系において固液平衡の境界を温度-圧力平面で引くには、自由エネルギー(化学ポテンシャル)の計算が必要となる。特に複数の固相を含む三重点の決定には正確な計算が不可欠である。液相の自由エネルギー計算は、熱力学積分などの方法が広く用いられ、またより計算機負荷の少ない方法も提案されている。
固体の自由エネルギーも、熱力学積分を基礎として計算法が確立しているが、液体の場合と同様に計算精度もしくは計算量は実在系に対する参照系の選択にも大きく依存する。通常、固体ではEinsteinモデルによる調和振動子を参照系とされているが、Debye型の調和振動子のほうがより良い選択であることは明白である。また、低温では参照系が正確な自由エネルギーを与えることからも、振動解析の負担を十分に補える。
本講では、残余エントロピーを有していたり格子が確定していない場合にも適用できる無定形相も含む分子性固体に対する自由エネルギー計算法を紹介する。この自由エネルギー計算法は、バルクのみならず制約空間における相境界を決定することにも有効である。これを、氷やクラスレートハイドレートに適用して、相の安定性が比較的簡単に予測できることを示すとともに、低温における負の熱膨張率の再現とその起源について説明する。
固体の自由エネルギーも、熱力学積分を基礎として計算法が確立しているが、液体の場合と同様に計算精度もしくは計算量は実在系に対する参照系の選択にも大きく依存する。通常、固体ではEinsteinモデルによる調和振動子を参照系とされているが、Debye型の調和振動子のほうがより良い選択であることは明白である。また、低温では参照系が正確な自由エネルギーを与えることからも、振動解析の負担を十分に補える。
本講では、残余エントロピーを有していたり格子が確定していない場合にも適用できる無定形相も含む分子性固体に対する自由エネルギー計算法を紹介する。この自由エネルギー計算法は、バルクのみならず制約空間における相境界を決定することにも有効である。これを、氷やクラスレートハイドレートに適用して、相の安定性が比較的簡単に予測できることを示すとともに、低温における負の熱膨張率の再現とその起源について説明する。